え?あの赤ずきんちゃんが死体と出会うって何ごと!?
というのが、タイトルを見たときの第一印象でした。
赤ずきんといえば、誰もが一度は聞いたことはあるであろうおとぎ話の一篇。
魔法使いなどが住んでいるメルヘンの世界のキャラクター・赤ずきんと、血なまぐさい「死体」という正反対なことばの組み合わせは驚きですよね。
読む前は、赤ずきんを面白おかしくパロディにしただけかなと思いました。
しかし読んでみるとメルヘンの世界を舞台にした本格ミステリーで、一気に読みきってしまうほどの面白さでした。
今回は、青柳碧人による小説『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』をご紹介します。
コンテンツ
本作は、数学ミステリーの『浜村渚の計算ノート』シリーズなどを手掛けた青柳碧人(あおやぎ あいと)による小説で、2020年8月に出版されました。
おばあさんの家へおつかいに行く赤いずきんをかぶった女の子・赤ずきんちゃんが、よく知られたメルヘンの世界を舞台に、殺人事件を解決していく4篇が入ったミステリー集です。
作者の青柳碧人さんの前作は、日本の昔話をベースとしたミステリーでしたが、今作はヨーロッパのメルヘンがベースとなっています。
主にドイツの『グリム童話集』に収録されているメルヘンで、「マッチ売りの少女」だけはデンマーク出身の作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンによる作品です。
・シンデレラ
・ヘンゼルとグレーテル
・眠り姫
・マッチ売りの少女
もともとの物語の後日談や同じ時間軸で事件が発生するという構成になっているので、原作を知っている人はより一層楽しめるはずです!
主人公は赤いずきんをかぶった女の子。
クッキーとワインを持っておばあさんの家へお見舞いに向かいますが、その途中で殺人事件に出くわしてしまいます。
「あなたの犯罪計画は、どうしてそんなに杜撰なの?」
という決めゼリフと共に、次々と謎を解き明かしていきます。
魔女の魔法によって現れたかぼちゃの馬車に乗って舞踏会へ向かう赤ずきんとシンデレラ。
しかしその道中、馬車で男性を轢き殺してしまい…。
出かけたきり帰ってこないヘンゼルとグレーテルの継母。
森の中へ探しに行ってみると、密室状態のお菓子の家の中で死体となって見つかります。
継母の死の真相とは…?
赤ずきんが訪れたのは国王不在の不思議な国。
眠り続けているお姫さまをめぐってうごめく陰謀を、赤ずきんは解き明かすことができるのか?
赤ずきんがたどり着いた港町は、ある少女が社長を務めるマッチ会社によって支配されていました。
少女の野望と赤ずきんの旅の目的が交錯し、町全体を巻き込む騒動へと発展していく…。
本作で一番驚かされたポイントは、メルヘンの世界で本格的なミステリーが成立しているという斬新さでした。
本作の舞台は、メルヘンの世界なので、魔女やお菓子の家といったファンタジーの要素がたくさんでてきます。
普通、ミステリー小説では魔法や超常的な要素はご法度とされています。
なんでもありになってしまい、読者がトリックを解くことができなくなってしまうからです。
しかし本作では、ここまではできるけどこれ以上はできない、といったルールがしっかりと設定してあります。
たとえば、「ある魔法使いは七日七晩続く魔法を使える」けれど、「別の魔法使いの魔法はかけた日の夜12時になると魔法が解けてしまう」と明確に区別してあるのです。
なんともない違いのように見えますが、この設定を巧妙に使って構成されているので、読者が犯人やトリックを推理することができるミステリーとして成り立っているのです。
メルヘンの世界でありながら、本格ミステリーとしてのバランスがうまく調整されている点が、本作のみどころです。
本作は、それぞれ1話完結の全4話の短編集となっています、
しかしその一方で4話はすべて繋がっていて、1冊を通して大きな謎も隠されているのです。
謎のヒントはところどころに散りばめられていて、
え!?そんなところにヒントが隠されていたのか!
と、巧妙な伏線に何度も驚かされました。
全体の伏線を探すために、つい読み返したくなってしまうような作品でした。