世界的な新型コロナウイルスの流行の影響を受けて、なかなか出かけられない日々が続いていますね。
家で過ごす時間が増える中で、読書の機会が増えた方やいろいろな本を読んでみたいなと思っている方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、私の大好きな作家の一人、多和田葉子についてご紹介します。
多和田葉子のすごいところを解説しつつ、初めての人にもおすすめの4作品を取り上げていきます。
- 多和田葉子はノーベル文学賞候補にもあげられる注目作家!
- 海外の雰囲気や異文化を感じられる作風が魅力
- 小説からエッセイまで、厳選の4作品をご紹介!
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多和田葉子(たわだようこ)は、 1960年東京都生まれの小説家・詩人です。
高校時代にドイツ語を学び、大学は文学部ロシア文学科卒と、複数の外国語を学んできた経歴を持っています。
大学卒業後は、ドイツのハンブルクにある会社に就職し、以降はドイツが生活の拠点としています。
1991年に『かかとを失くして』で『群像』新人文学賞を受賞してから、芥川賞、野間文芸賞、読売文学賞など、多くの国内の文学賞を受賞しています。
しかし実は多和田葉子の小説家デビューは、ドイツが先でした。
1987年に日本語とドイツ語両方が用いられている作品『Nur da wo du bist da ist nichts/あなたのいるところだけなにもない』がドイツで出版されたのです。
ドイツ国内では、1996年にバイエルン芸術アカデミーのシャミッソー文学賞を授与、2005年ゲーテ・メダルを受賞、さらに2018年には全米図書賞(翻訳文学部門)を受賞するなど、世界的に活躍している作家です。
多和田葉子のすごいところはなんといっても、
日本語・ドイツ語の両方で創作活動をしていることです。
母語ではない言語で作品を書いている作家は他にもいますが、移民あったり、政治的な理由によることほとんど。
しかし多和田葉子にはそのような理由とは関係なく、日本語とドイツ語の両方を使って作品を書いているのです。
さらに日本語で書いた作品を自分でドイツ語に翻訳して出版するなど、日本だけで活躍する作家とは違った活動もしています。
多和田作品では、ひらがな・カタカナの使い分けや日本語を俯瞰的に見たような独特な表現が多く見られます。
日本語とドイツ語を使いこなせるからこその、日本語のようで日本語ではないような不思議な作品世界が、多和田作品の魅力のひとつなのです。
多和田葉子は2018年頃からノーベル文学賞の候補として名前が挙げられています。
ノーベル文学賞といえば、村上春樹が受賞するかどうかという話題が世間を騒がせていますが、多和田葉子もそれに並ぶ作家とされているのです。
実際、多和田作品は日本語やドイツ語だけではなく、30を超える言語へ翻訳され、世界中で読まれています。
村上春樹のようにメディアに取り上げられることは少ないかもしれませんが、今後さらに有名になるであろう多和田葉子にも注目してみてください。
最初にご紹介するのは、2003年のエッセイ『エクソフォニー ―母語の外へ出る旅』です。
小説家としての多和田葉子を紹介しているのですが、1つ目はあえてエッセイ取り上げます。
なぜなら、本作には多和田葉子独自の「エクソフォニー」という考え方が散りばめられており、これを知ることで彼女の小説をより一層楽しむことができるからです。
多和田葉子が世界各国のセミナーやイベントなどに参加しながら、母語である日本語の外に出ることについてをつづった紀行文がメインとなっており、活字が苦手な人でも読みやすい文体となっています。
多和田葉子は意識的に母語である日本語の外に出てみる「エクソフォニー」という独自の視点から、ことばや文化についてするどく洞察しています。
多和田葉子と一緒にことばをめぐる旅にでられる作品であり、彼女のことばに対する考え方を知ることができるでもあるので、多和田葉子入門としてもおすすめです。
- はじめて多和田葉子の作品に触れる人
- 長い小説が苦手で、スキマ時間に読書をしたい人
- ヨーロッパ旅行が好きな人
次のおすすめは、第64回 野間文芸賞を受賞した小説『雪の練習生』です。
本作は全3部から構成されており、ホッキョクグマ三世代それぞれのストーリーが描かれるという不思議でユニーク作品。人間と動物が共存する世界観で、「人から見た動物」「動物から見た人」の視点が行ったり来たりしながら物語は進みます。
冷戦や環境問題など現実世界ともリンクしているところがくせになり、土日で一気に読破してしまいました。
サーカスの花形から事務の仕事へ転身し、さらには自伝を書くことになるホッキョクグマの「わたし」。
その娘「トスカ」は、東ドイツで曲芸師の女性と心を通わし、「死の接吻」で歴史に名を残すことに。
そして最後は、ベルリンの動物園で人気者「クヌート」へと話が受け継がれていきます。
- しゃべる動物が好きな人
- 東西冷戦下の物語に興味がある人
- ベルリン動物園の人気者「ホッキョクグマのクヌート」ときいて、ピンときた人
『献灯使』は2014年に出版された作品で、2018年にはアメリカで有数の文学賞の一つである全米図書賞の翻訳部門を受賞した小説です。
舞台は謎の厄災に襲われたあとの日本。そこでは鎖国政策によって、外来のモノだけではなく外来語さえも禁止されているディストピア的世界です。
「言葉遊び」の鬼才ともいえる多和田葉子が紡ぐ、「ことば」が禁止された世界の物語。日本に住み、日本語を使う者として、多くを考えさせられる作品でした。
海外からのモノや言葉さえも無くなった日本。東京の西域にある仮設住宅で暮らす不死の老人・義郎は、身体が弱い曾孫の無名の世話をしながら生活していた。
ある時、無名は「献灯使」に選ばれ国外へ渡ることになるのだが…。
- 多和田葉子の本格小説作品を読んでみたい人
- ディストピア小説やサイエンスフィクションが好きな人
- 日本や日本語を外から見ることに興味がある人
外来語が廃れた世界では、ジョギングのことは「駆け落ち」と呼ばれ、インターネットがなくなった日は、『御婦裸淫(おふらいん)の日』として祝日になっている。そんな不思議な世界観がクセになる作品でした。
3作目のおすすめは『地球にちりばめられて』です。
2018年の作品で、多和田葉子らしさがふんだんに盛り込まれた傑作だといえます。
「(日本だと思われる)国が消えてしまった」世界で、主人公の Hirukoが、同じ母語を使う人を探す旅をする冒険小説のような作品です。
Hirukoの旅の同行者は、デンマーク人の言語学者やイヌイットの青年、トランスセクシュアルのインド人、日本の古い神様と同じ名前を持つ謎の男性など、個性があふれすぎている面々。一つのアイデンティに収まらない、不安定さを持つキャラクターが多く出てくる点が、とても多和田葉子らしいなと感じました。
言葉、民族、国、ジェンダー境界線がいい意味で壊されていくような、不思議な作品です。
本作は、連作長編三部作の1巻目にあたり、『星に仄めかされて』『太陽諸島』へと物語は続いていきます。
長編の連作なので、ためらってしまう人もいるかもしれませんが、自分は続きが気になりすぎて没頭するように読み切ってしまいました。それくらい素晴らしい作品なので、ぜひ多くの人に読んでもらいたいです。
北欧へ留学中に、出身の島国が消滅してしまった女性Hiruko。
Hirukoは、北欧語をごちゃ混ぜにして新しく作った言語「パンスカ」を操ることができる。そんなHirukoに興味を持った言語学科の学生ナヌークは、彼女に会いに行くことにする。
そしてHirukoはナヌークと共に、彼女の母語を話す人を探す旅にでることになるのだが、その道中で多様な世界に生きる仲間たちと同行することになり…。
- 長編の小説が好きな人
- 自分のアイデンティに悩んだことがある人
- 国家とはなにか、母語とはなにか、アイデンティはなにか、と考えたことがある人
多和田葉子の作品を初めて読んだときの驚きは、今でも鮮明に覚えています。
日本語のようで日本語ではない、
慣れ親しんだことばなのだけど少しだけ違うことばのような気もする、そんな不思議な感覚になったのです。
私と同じ感覚を楽しんでもらいたく、私が読んだ多和田葉子作品の中から選りすぐりの4冊の本をご紹介しました。
ぜひ多和田作品に触れて、新しい日本語の世界を体験してみてください。