今回は、アイ・ウェイウェイ監督による映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』をご紹介します。
現代芸術家 アイ・ウェイウェイが自ら世界各地の難民キャンプをめぐり、撮影したドキュメンタリー映画です。
「難民」という比較的重いテーマを扱っていますが、芸術家のアイ・ウェイウェイが手掛けた映像美を通して観ることで、身構えすぎることなく観られる作品となっていました。
大きくまとめると、こんな映画です。
- 現代芸術家 アイ・ウェイウェイについて知ることができる
- 芸術家が手掛けるドキュメンタリー映画だからこその映像美を楽しめる
- 難民問題について、リアルな現状を観ることができる
コンテンツ
難民問題っていうけれど、そもそも「難民」って何でしょうか。うまく説明できる人は多くないのではないでしょうか。
『ヒューマン・フロー 大地漂流』の公式HPに難民についての説明がありますので、以下に引用します。
難民については、1951年の難民条約に以下のように定められています。
映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』公式HP:http://www.humanflow-movie.jp/
「人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けられない者またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者」
自分の目的や意思によって生まれた国を離れる人は「移民」と呼ばれますが、「難民」は自分の意思に関係なく国を離れざるを得ない人ということになります。
また、難民についての衝撃的なデータもありました。
世界の「難民」はここ10年で何とほぼ倍増、国内避難民など強制的な移動を余儀なくされた人を加えると6,850万人にのぼります。
映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』公式HP:http://www.humanflow-movie.jp/
これは世界全人口の1%弱。実に100人に1人が移動を強いられ“難民”あるいは迫害や紛争を逃れるため国内避難民になっていたり、他の国に庇護を求めていたりするという計算になります。
いまや世界は、難民を抜きにして語る事はできません。
世界の人の100人に1人が故郷を追われた難民って驚きですよね。
私が中学生だったとき、1学年が100人くらいだったので、その中に1人は難民だということになります。
日本で生活していると遠い世界の問題のように思えてしまいますが、難民問題は無視することができない現在進行形の課題なのです。
アイ・ウェイウェイ(艾未未, 1957~ )は中国・北京出身の現代芸術家です。
芸術家としてだけではなく、評論家や建築家など多方面で活躍しています。
またアイ・ウェイウェイは、世界の難民問題についてSNSで発信し続けており、社会活動家としての顔も持っています。彼にとって、難民問題は重要なテーマの一つなのです。
そのため、彼が難民問題をテーマにした作品を世に出すことは、初めてではありません。
例えば、六本木・森美術館で開催された「カタストロフと美術のちから展」では、『オデッセイ』というイラスト作品が展示されました。
古代ギリシャを思わせる画風で、キャンプで暮らす人々やボートに乗る人々、武装した軍・警察など難民に関する多くのテーマが描かれています。
このように、以前から難民に関する活動を続けてきたアイ・ウェイウェイが、ドキュメンタリーという形で難民の実情を映像に収めた作品、それが『ヒューマン・フロー 大地漂流』です。
タイトル:『ヒューマン・フロー 大地漂流』 (原題: Human Flow)
制作:2017年(ドイツ)
監督:アイ・ウェイウェイ
上映時間:140分
本作にはヨーロッパや中東、アジア、アメリカ、アフリカまで世界23カ国40か所の難民の様子が記録されています。
ギリシャの海岸にたどり着いた難民たち、ガザ地区のパレスチナ人、ドイツの空港の跡地に設置された難民キャンプなど、各地の難民の様子が映し出されます。
映し出される人たちもさまざまでした。
苦しい状況に希望を失いかけている人や前向きに懸命に生きようとする人、彼らを支援する団体UNHCRの職員の方など。
ニュースや教科書だけでは知ることができない、しかし私たちが知らなくてはいけない現実だと感じました。
難民問題という重いテーマを扱っている一方で、映像の美しさが印象的な作品です。
アイ・ウェイウェイが芸術家であることもあり、計算され洗練された美しいカットの数々が収められています。
またドローンを使って難民キャンプを上空から撮影するなど、ダイナミックな映像もありました。
難民たちのリアルな状況を美しい映像で映し出す、そのギャップが難民問題の凄惨さを際立たせています。
私が一番印象的だったことは、各地の難民キャンプで子どもたちがカメラに向かって笑顔で手を振っていたことでした。
世界各地の難民キャンプが映し出されますが、どこであっても子どもたちの笑顔は共通しているのです。
日本の公園で遊んでいる子どもたちと何ら変わりがないものなんだなと思います。
笑顔を向けていた子どもたちのためにも、難民問題から目をそむけてはいけないなと痛感させられました。
現代芸術家としてのアイ・ウェイウェイの作品はこれまでいくつか見たことがあり、好きなアーティストでもあったので、「へぇ~映画も撮るんだなぁ」くらいの軽い気持ちで観に行きました。
観終わったあとは、難民問題の現実への驚きや理解が低すぎた自分自身への情けなさなど、様々な感情がぐるぐるしすぎて何も言葉が出てこない、そんな状況でした。それほどの衝撃です。
「難民」とカテゴライズされていますが、「難民」はそれ以前に同じ「人間」です。まずはしっかりと知ることから始めて、少しずつでも自分にできることをやっていきたいと思います。
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